第1章 秋の声
その日は、とある秘匿に進められている企画のため、会社に集まって欲しいとドズルさんと待ち合わせをする日だった。
俺は別の用事ついでに会社へ向かったのだが、まだ待ち合わせの時間には早く、スタッフさんに誰も使っていない会議室に案内されると、そこにはよく知った人物がスマホを弄りながら椅子に座っていた。
ぼんさんだった。
ぼんさんは、俺が密かに思いを寄せている人物であった。グループとしてはよくない感情だと思ってはいるものの、芽生えたものというとのはそう簡単に打ち消せないものである。だから俺は、一生思いを告げないと心に決めているのだが、こうも二人きりの状況になるのはマズイ気がした。
「お〜MENじゃん」
俺の心境を知るはずもないぼんさんが気さくそうに片手を上げる。俺はうっすと頭を小さく下げて適当な椅子に座ると、早速ぼんさんが話し掛けてきた。
「なんでそんな離れるのよ?」
わざと離れて座ったんですけど、と正直に答えると面倒なので俺は咄嗟に別の言葉を考えた。
「ぼんさんこそ、なんでそんな奥の席に座ってるんですか」
そう、俺は、入ってすぐに近い椅子に座っただけなのだ。俺の行動はおかしくないはずだ。