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【呪術廻戦】伏黒・狗巻 何となく続く短編集

第1章 ひとひらの優しさ


ひとひらの優しさ(伏黒恵)

訓練中に囮にしていた鵺(ぬえ)が、桜並木に吸い込まれていった。攻撃を受けている気配はないが、様子を伺う。

「ごめん、見つかった」

鵺を調伏した時に、一緒に保護した少女に吸い寄せられていたようだ。鵺は守るように、彼女を翼で覆っている。

凪を見つけると、訓練中でも彼女の方に行ってしまうから、最近は気を遣っていたようだ。謝られても凪は悪くない。どちらが悪いと決めるのであれば、致し方なしとはいえ、鵺を使役している恵の分が悪い。

それに、彼女が今抱えているのは、先日、恵が壊した呪具だ。直して貰ったことを差し置いて、怒れるような図太さは、ない。

鵺の中で、カタカタと呪具の金具が鳴っている。よく見れば呪具を持つ凪の腕が震えていた。そういえば、この所また寒さがぶり返している。訓練三昧の恵にとっては、多少寒いくらいが丁度いいが、動いていなければ震える程なのだろう。

鵺は、震える凪に気付いていた。

そっとため息を吐きながら、恵は上着を脱いだ。汗ばむ肌に、冷えた空気が心地良い。鵺の羽を避けて、凪の肩に上着をかける。ついでに、綺麗に直った呪具を掴み取る。

「借りてく」

元々は恵の使っていた呪具だが、どうせまた壊しては彼女の手元に戻るのだ。この場合、たぶん、借りるでも間違いはない。

桜並木の向こうから、足音が迫る。訓練の途中に、のんびりしていると先輩たちにどやされそうだ。彼女に上着を被せて満足した顔の鵺を、思い切り飛ばす。

「夕飯まで、それ持っててくれ」

丁度、暑くなってきた所だった。その辺に脱ぎ捨てるよりはいいだろうと、自分に言い訳をしながら、恵は駆け出した。
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