第6章 花と恋
花と恋(狗巻棘)
楽しい時間が惜しくて、みんなを集めたけれど、朝寝坊した棘以外はみんな寝てしまったから、全員に毛布をかけて回った。それからは、ベッドの上で最初に寝落ちした霧の横に転がって、彼女の寝顔を眺めていた。
花びらみたいな髪を、指先に絡めてキスをする。湧き出す欲望に、負けてしまいそうだった。棘が自分と戦っている間に、彼女の瞼が動く。起こしてしまったかと声をかけると、途端に肩を震わせて、頬を染めた。
このまま、棘の腕の中に閉じ込めてしまえたら、どんなにいいだろう。術式なんか忘れてしまえと、その頬を撫でる。
「すき」
呪言。縛るのは、棘自身だろう。どうせ、好きな気持ちが溢れ出してしまっている。多少増えた所で誤差だ。棘の言葉に息を乱す彼女が、可愛らしくて仕方ない。
返事が欲しいと最後の理性で、棘は両手を差し出す。本当は誰にも渡したくないけれど、彼女が嫌がることはしたくない。「しゃけ」と「おかか」を用意して、人差し指を選ばせると、霧は悩むことなく飛びついた。
「私も、好き、です」
身体中の血管が壊れたかと思う程、熱くなる。まるで呪言でも受けたかのように、他のことが考えられなくなって、棘の身体は彼女に覆い被さっていた。きっと、これは、呪言だ。霧の言葉が、棘を縛る。
我慢できなくて、霧の唇を舐めた。触れるだけのつもりだったのに、快楽に負けて何度も啄む。唾液の絡む音と、彼女の口から溢れる声が、棘を壊してゆく。
キスを繰り返しながら荒れた息を何度も吐き出し、落ち着けと自分に言い聞かせた。今は、これ以上は、絶対に駄目だと、彼女の首筋に頭を埋めて強く抱きしめる。そして「かわいい」と「だいすき」を繰り返しながら、腕に力を込めた。
朝になって叩き起こされるまで、棘は霧をしっかりと抱きしめていた。