第4章 包み込むような
包み込むような(霧)
寒い。
日が照っていればまだ暖かいはずだったのに、分厚い雲が太陽の前に横たわっている。加えて、冷たい風が体温を奪う。厚着してくるべきだったと、迎えの車を待ちながら震える腕を摩った。
「明太子?(大丈夫?)」
心配そうに覗き込む棘に、頷くのが限界だ。寒さに体力を奪われて、膝が震え始める。命に関わるから身体を冷やすなと言われていたのに、これは怒られそうだ。
震えて痛む身体と、狭くなってゆく視界に、いよいよ耐えきれず、その場にしゃがみ込んで、膝を付く。慌てて駆け寄った棘の胸に、身体を預けた。
もうすぐ迎えがくるから頑張れと、身体を応援する。焦って霧を呼ぶ棘に、大丈夫、大丈夫と、言いながら、自分を励ます。
ふと、身体に当たっていた風が遮られる。突然の温もりに身を持ち上げようとすると、反対にぎゅうぎゅうに締め付けられた。棘の上着に包まれ、両手と膝でしっかりと抱きしめられていて、身動きが取れない。
「おかか(大丈夫じゃ、ない)!」
彼だって寒いはずなのに、優しさに甘えてしまう。棘の胸に耳を当てて、彼の鼓動と一緒に呼吸する。震える指先で服を掴むと、彼の腕にもぎゅっと力が籠る。
暖かい。
彼の腕の中は、どうしてこんなにも暖かいのだろう。心配そうに頬を包む手のひらも、狼狽えて泳ぐ視線も、霧に触れる全てが、霧を甘やかそうとする。こんなに優しくされたら、トロトロになって、いつか溶けて消えてしまいそうだ。
「あったかい…」