第4章 包み込むような
包み込むような(伏黒恵)
呪術師たるもの、体調不良は言語道断。だから、こんなにも絵に書いたような『身体が弱くて熱を出す人』を見ることも、あまりなかった。ちょっとした気温の変化や乾燥で寝込む霧は、体調が戻ったら、少し鍛えてやった方がいいかもしれない。でなければ、毎回のように凪まで一緒に消耗してしまう。見ている恵の方が辛くなる程に。
何かに取り憑かれたように、できることを探す凪を、ただ見ている。粥まで炊いている彼女を、止める事もできずに、居た堪れない。
「あの人、霧ちゃんにだけ優しい」
「そうだろうな」
気持ちは分かる。あの人にとって、特別な人だから。恵だって、凪が寝込んだら、世話くらい焼きたい。頼られたいというのは、男の甲斐性だろう。
「霧ちゃん、取られちゃう」
大事な人は、取るとか、取られるとかじゃなくて、自分で選ぶものだ。彼女を駆り立てる感情が何なのか、恵には皆目見当も付かない。それでも、堪えていた涙が溢れだしてしまった凪の不安を、和らげることができるだろうか。
彼女の頬を滑る涙を、手のひらで拭う。驚いたように恵を見上げた瞳からは、また涙が溢れ落ちてしまうから、恵は思わず凪を抱きしめた。もう泣くなと言いたいけれど、いっそ満足いくまで泣き尽くした方がいいのだろうかと迷ってしまって、彼女の背中を摩る。
「お前には、俺がいるだろ」
どうせなら一思いに取られてしまえばいい。そうなったら、恵も遠慮なく独り占めしてやる。そんな世迷言を考えながら、彼女の頬に、自分の頬を重ねた。その柔らかな感触を味わうように、唇を這わせる。
早く元気になれ、不安なんか消えてしまえと、恵は凪の頬にそっと口づけた。