第30章 王様の最後
「もう会うことはないかもしれませんが」
その時、目の前で一匹のピグリンが仰々しく跪いた。あ、これがゴエイくんだ。俺は自然と、ゴエイくんの目の高さを合わせようとしゃがんだ。
「お、王様っ?!」
「ううん、もう俺は王様じゃない」俺は、胸についている赤花のブローチを外した。「次の王様はキミだよ」
「こ、これは……」
「おんりーだと思って置いて」
ゴエイくんは躊躇いがちに、俺が差し出したブローチを受け取った。それから両手で包み込み、頭を深く下げた。
「ありがとうございます……ありがとう、おんりー。本当に……」
そう言うゴエイくんの肩が震えているように見えた。もう行かなくてはいけないかもしれないと俺は考えた。
「じゃあ行くね」俺は立ち上がった。「出発する時とか見送りをする時の挨拶があるんだけど……」
「はい、なんなりと」
「俺がご武運をと言ったら、ご武運をと返して欲しいんだ」
「分かりました」
ゴエイくんはすっと背筋を伸ばした。泣いてはいなかったと思うけど、ピグリンの顔が見分けられなくなった俺には、もう判別は出来なかっただけかもしれない。
「じゃあ……ご武運を」
「「ご武運を!」」
ピグリンやピグリンブルートたちが一斉に敬礼して見送ってくれた。
俺は彼らたちを眺めながら、やがて紫の闇へと吸い込まれていった。