第10章 クロス
「何かありましたか、王?」
「あーいや、なんか呼び方がないと動きづらいなって思ってね」
するとクロスボウ兵の顔がぱっと明るくなった。
「兵長みたいに、ワタシにも何か名前を下さるなら嬉しいです」
「えぇ……」
こうなることなら、ゴエイくんをゴエイくんと名付けない方がよかった、なんて意地悪な考えも抱きながら、そうだなぁと目の前のクロスボウ兵の名前を思案した。
「うーん、普通に、クロスとかは?」
「クロス……ワタシの名前が、ですか?」
「そっ」
「嬉しいです。今日からワタシはクロスなんや♪」
あ、関西弁だ。
ネザーの世界に関西なんて地方はないだろうけど、いかにも関西訛りのクロスにどこかの雪だるまを頭の中で浮かべながら、やっぱり元の世界に戻りたいな、と俺は思った。
ここから先どこまで行けばいいんだろう、とマグマの谷に橋を架けに行ったピグリン兵たちへ視線を投げると、丁度ブロックを置き終えたゴエイくんが走り寄ってきてすぐに俺の前に跪いた。
「橋を架け終えました」
どうぞ、こちらへ、とゴエイくんに案内されるまま俺はマグマの谷に架けられたブロックの橋を渡りながら、どうも彼らの恭しい態度には慣れないなぁと思って向こう岸を見やると、次はソウルサンドバレーが見えてきてため息が出そうになるのを噛み殺した。