第6章 ガストバイオーム
「ガストだ!」
と兵の誰かが叫んだのをきっかけに、ピグリンたちは周りへ散り散りに走り出した。目の前からガストの火の玉が迫っていたからだ。
ただ、ゴエイくんだけは俺の隣にいた。そんなところにいて平気なのかと聞いている余裕はなく、俺は素手で火の玉を打ち返そうとした。
「あっち!」
火の玉は打ち返せたが、ガストに命中しなかったどころか、熱さがある……?!
そうか、ここはゲームの世界に生身の俺が入ったようなものだと全てを察し、大丈夫ですかと騒ぎ立てるピグリン兵たちを無視して立て続けに放たれるガストの火の玉をかわした。
「王に手間をかけさせるな!」
ゴエイくんの一声で兵たちの士気は上がり、ピグリンの一人が俺より前へ飛び出してクロスボウの矢を放った。見事、矢は命中してガストは断末魔を上げながら倒れて行った。
「助かった……ありがとう」
俺はクロスボウピグリンへ視線を向けた。そのピグリンは一言も話さずにおじぎをしてまた列を成して戻って行く。ピグリン兵は王との会話を許されないのだろうかと考えていると、ゴエイくんが近付いてきてご無事で何よりですと声を掛けてきた。
「もしかしてゴエイくんって、ピグリン兵の中で偉い方?」
散り散りになったピグリン兵たちを一声だけでまとめた統制力。ゴエイくんは恭しく頭を下げながら、こう答えた。
「一番偉いのは王である貴方です。私はただの兵長ですから」
「兵長……」
なのに俺は、兵長をゴエイくんと名付けてしまった。名前はそれでいいのかともう一度聞いてみても、気に入っていますと返されるともう何も言えない。
「まぁ……とにかく行こうか」
「はい」
俺の一言を合図に、ピグリン兵たちは一緒に歩き出した。