第15章 紫の薔薇
「……これで最後ですか」
しばらく別荘で暮らしていた俺は、元の家に戻るため、少ない荷物を引っ越させていると、透くんが声を掛けてきた。
「そうね。わざわざありがと」
透くんは仕事時間外なのに俺の荷物運びを手伝ってくれていた。
「いえ、俺が手伝いたかったんです」
という言い方が出来る透くんはやっぱりカッコよくてモテるんだろなぁと俺は思った。
「けど、契約期間も終わったのに来てくれるなんて、俺のこと好き過ぎるのは透くんも同じじゃないの?」
なんて俺が茶化すように言うと、透くんの体が途端に硬直して顔を覗き見た。透くんは案の定瞬きが多くなり、俯いたままだった。
「……あの、すみません」
間を置いて言った透くんの言葉は、まるで肯定を示すみたいだった。
「謝らなくていいのいいの。知ってたから」
と俺は言いながら荷物を片付ける。俺は今まで、透くんの行動はファンとしての好意からだと思っていたからだ。透くんに、背中から声を掛けられるまでは。
「知っていたんですね……」
「……え?」
あまりにも重めに開かれた口に、俺は振り返る。透くんは真っ直ぐとこちらを見据えていた。
「隠しているつもりだったんですが……知っていたのなら、話は早いですかね」
透くんの言葉がなんなのか分からないまま、ちょっと待って下さいと一旦玄関の方へ向かった。そこには大きな紙袋が置いてあり、そこから紫の花束を取り出してきたので俺は一瞬息を飲んだ。
「え」
戸惑う俺をよそに、透くんは迷わずこちらに向かって歩いて来て目の前で跪いた。ちょっと待て。このシーンどこかで見たことあるぞ?