第14章 その日
「え、さっきの声は……?」
俺の家に警備員がいることは、ドズルさん以外知らないはずだ。ドズルさん以外の誰かがそう聞き、今ここで話すべきだろうかと悩む間もなく、透くん自ら開けることのなかった配信部屋の扉が開いた。
「……終わりました」
扉の前に立つ透くんの顔には、珍しく汗が伝っていた。リモート会議中だったとはいえ、俺が間に立っているから互いの顔は見えないだろうが、声はバッチリ入っているだろう。
「ちょっとみんな一旦切るね」
「えっ」
困惑するみんなとの通話を中断し、扉の前に立ち尽くしたままの透くんを振り返る。透くんはもう一度同じ言葉を言った。
「終わりました」
どうぞ、こちらへと言うかのように透くんは扉から横へ避ける。俺が恐る恐る部屋を出ると、そこには仰向けでロープに縛られた女性がジタバタと暴れていた。
俺は言葉を失った。テーブルの上には見知らぬ包丁が置いてあってさらに絶句した。
「鍵を失くしたと言って適当な番号の住民に入れてもらったそうです」と透くんは冷静に話す。「先程のチャイムで鍵を開けてはいないのですが……これを使ってオートロックを外したようです」
と透くんが俺にカードのようなものを見せてくれた。
こんなたった一枚で俺の家に入ってこられるなんて。俺はショックだったし、そこで捕獲された女性が全くの見ず知らずの人であることにも恐怖を覚えた。
「それで、なんで俺の部屋に……?」
「んーんー!」
女性はロープで口も塞がれていたので、そう呻くだけだった。だがこちらを睨みつける目は狂気を感じるもので、俺はじっと見つめることは出来なかった。
「事情は警察に渡してから聞いてみましょう。今聞いたら、きっと……」
透くんは言葉を続けなかった。俺のことを気遣ってのことだろうと思われた。
「そうよね」
俺はなんとかそう言って警察が駆けつけるのを待った。