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紫の薔薇を貴方へ

第13章 恐怖と勇気


「何言ってるの。俺はよくいる四十のおっさんよ? すぐ慣れる慣れる」
「だと、いいんですが」
 俺は手を拭いてさっさとリビングへ戻る。後ろで遠慮がちに透くんがやって来て、一緒にソファに座った。
「あの、ぼんじゅうるさん」
「何?」
 俺はもう一度麻雀アプリを開いていて、目を上げなかった。
「先程の事故は、ストーカーの話とは全くの無縁です」
 手が止まる。
 それから顔を上げて透くんを見やると、透くんは相変わらず真っ直ぐにこちらを見、まるで貫かれそうだった。
 なんだ、バレていたのか。あの会話で誤魔化せたと思ったのに。ああやって動いていれば、バレちゃうものなのか。俺って本当、分かりやすいんだなぁ。
「俺、本当は怖いんだよね」
 頭で考えるより早く、口をついて出た言葉は俺の本心だった。
 オートロックのマンションの、俺の部屋目掛けて入ってきた誰か。それが誰なのか分からないのも怖いし、次は何かされるのかもしれないと思ってしまう自分も怖かった。人のことは疑いたくない。けど、こうして振り返ると俺はそんなに強くなくて、暗がりでうずくまってるダメな男なんだと自覚する。気にしないようにしていても、怖いものは怖いのだ。
「恐怖は、誰にでもあります」透くんの凛とした声が俺の耳に響くみたいだった。「ですが、恐怖を糧に立ち向かう勇気も素晴らしいものです。貴方はそれをゲームの中で示して下さい。私は、ぼんじゅうるさんの警備員として、貴方を必ず守ります」
 それは、心強いものだった。言葉通りにいかなくても、今の俺の心を救うには、充分過ぎる程。
 俺は目を伏せて透くんの肩にぽんっと触れた。透くんは、もう驚いたりはしなかった。
「ありがとね、透くん」
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