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紫の薔薇を貴方へ

第11章 怪しい人影


「あの、私は……」透くんが静かに口を開いた。「いつも、ぼんさんの配信を思い出しているくらいです」
「……え?」
 今度は俺が驚く番。見やれば透くんは瞬きせずにこちらを見つめ返している。それは本当であると示しているようなものだった。
「俺の配信を? よく消しているのに」
「はい。先程の配信も聞いていました」
「配信部屋は防音してるはずなんだけど……」
「スマホから聞いていました」
 マジか、と俺は言葉を零した。だったらこの人はいつ寝ているのか。俺より睡眠が浅いのか、ショートスリーパーってやつなのか。そうじゃないとこういう警備員は出来ないのか、俺には分からなかったし、聞こうとは思わなかった。
「そうだったんだ。ありがとね」
「いえ、こちらこそ」
 俺が感謝を述べれば、まるで定型文のような返事をされる。こういうタイプとはあまり関わったことがないので、それが本心なのか社交辞令で言っているのかは分からない。けど、俺のどうしようもない雑談配信を聞いていたのなら、そういうことなのかもしれない。……って聞いていたのか?
「聞いていたって、イヤホンで?」
「はい」
「聞きながら寝てたってこと?」
「そういうことです」
 いや確かに、深夜だから叫んだりしないようにしているけど。寝落ちした人を起こさないようにするどころか、寝ながら聞く人用の配信になっていたとは。俺の声うるさくないんだ。なんて一人で自分のことを自賛していると、話は変わるんですが、と次は透くんから話を振ってきた。
「最近、妙なことに巻き込まれたりしていませんか」
 かなり真面目なトーンで言ってきた透くん。やめてよ、なんの話なんだと俺がその質問に首を振れば、実は……と透くんはこんな恐ろしい話をし出したのだ。
「マンション周辺で、怪しい動きをする者を度々見かけます。それがぼんじゅうるさんを狙った者かは分かりませんが、ここ数日、警戒しているのです」
 マジか。二度目の呟き。
 俺は忘れようとしていたあの日の恐怖が再び頭の中に蘇り、つい身震いをする。透くんはさらに訊ねた。
「ぼんじゅうるさんは、いつもベランダで煙草を吸っているんですか?」
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