第9章 寝泊まり警備
「え、誰? 誰の話してるのよ?」
動揺は俺の言葉からも零れた。あまりにも透くんがじっと黙っているから、次の話が待ち切れないのもあったのだが。
「私の話です」
「ほんとに?」
「はい」
「えーっと、俺を襲いたいってこと? 寝ている間に?」
「そうかもしれないのに、信頼して頂いているのでしょうかってことを……」
「ああ、そういうこと」
俺は変な方向に考えてしまっていたので、透くんからの回答がそれで安心した。
透くんは言葉は少ないが、真面目な性格であるのは最初から滲み出ていたではないか。だから俺は、透くんに寝泊まりの警備を頼みたいと心から思ったのだ。
「透くんに頼みたいのよ」
実は、あの事件以来怖くてずっと頭の中にあるんだよね、なんて言えないから。
すると、透くんがわずかに微笑んだので、あ、彼もこんなに優しく笑うことがあるのかと、失礼ながら俺はそう思った。
「ありがとうございます。では、寝袋を取ってきます」
「あー、寝袋ね。分かった分かった……ってえ、寝袋?」
「ぼんじゅうるさんが起きている間、私は邪魔にならないところで睡眠を取ります。しかし、何か起こればすぐ対処出来ますので……」
「いやいや、そうじゃなくて」俺は透くんの仕事上定型文を遮ってこう訊ねた。「寝袋ってどういうこと? 俺のベット使ってよ」
「ぼんじゅうるさんのベットで寝ることなんて出来ませんよ、そんな……」
「変な気持ちになるから?」
「ち、違いますよ、ぼんさん!」
あ、今度は怒った。意外と感情豊かなんだなぁと俺がヘラヘラすると、透くんはハッとして表情を引っ込める。それからボソボソとすみませんと謝るので、仕掛けたのはこっちなんだからと俺も謝ることになって訳の分からないことになった。
「と、とにかく俺、寝袋取ってきますから」
そう言いながら透くんは立ち上がった。こうして見るとやはり背は高いし体格もガッシリしている。
「行ってらっしゃい」
と見送る俺だったが、まだ寝袋についての話はまだ終わっていなかった。
つまり透くん、どこに寝るのよ……?