第9章 寝泊まり警備
そうして、透くんが俺の家に派遣されて一ヶ月は経った。
あれから特に目立ったことは起こらないまま、透くんが退院して俺の家に再びやって来た。
「ここしばらく、ご迷惑をおかけしました」
玄関に立った透くんは、規則正しくそう言って頭を下げる。
そんな堅い挨拶はいいと、俺は透くんをリビングに連れ出し、ソファに座ってもらう。体調は大丈夫なのかとかなど話したあとに俺は切り出した。
「透くんがいない間、ずっと代わりの警備員さんがいたんだけどさ」俺は話続ける。「やっぱ、警備は透くんにいて欲しいと改めて思ってさ。契約、伸ばそうと思うんだよね」
と言い終えると、透くんが何度も瞬きをした。硬い表情で唯一感情の揺れを示す透くんの顔。瞬きがよく目立つのは、彼のまつ毛が長いからだと今更気付いた。
「どお? ダメかな?」
「いえ、そんなことないです」
返事がしばらくなかったのでそう聞けば、慌てたように透くんがそう答える。それからわずかに口元が緩み、視線を下へ逸らしながら呟くようにこう言った。
「その、嬉しいです。……憧れのぼんさんに、俺にいて欲しいと言ってもらうのは」
と言われて驚いたのは俺だった。個人的な話を透くん自身から話すのは初めてだったから。
やはり彼は、俺のファンなんだと改めて感じた。普段表情も気持ちも出さない透くんの気持ちを、大事にしようと俺は思ったのだ。
「いやいや、助かってるのはこっちの方よ。多分、最近ずっと被害ないのは、警備員がいてくれたからだろうし」
「そういう可能性もあるかもしれませんね」
「それに、透くんとこうして話してると気が楽なんだよね。いや、代わりの警備員さんもよくしてくれたけど、なんていうか、過ごしやすいからさ」
「ありがとうございます」