第8章 見舞い
「それは……そうかもしれないけど」
と俺が渋々そう答えた時、ぱっと透くんが笑顔になった。それは、初めて彼と会った時に見た顔だと思い出し、やはり可愛らしい顔をしている男だと思った。
「ありがとうございます。そう言ってくれて嬉しいです」
と透くんが少し高めの声で言った気がした。それが、仕事上の言葉なのか、個人的な理由からの言葉かまでは分からない。
「でも、ゲームは上手くないのよ。透くんの方が上手いでしょ」
「いえ……私、ゲームというものをしたことがないので」
「え、そうなの?」
世の中若い人はみんなゲームやらアプリやらをやらないとやっていけないくらいなのに。というのは言い過ぎかもしれないが、ゲーム自体触れたことがないと言い切るのもそれはそれで珍しい。
「じゃあ、麻雀とかもやったことないの? オセロとかさ」
「オセロはやったことがあります。学生の頃に」
それも、テーブルの上でならやったことはあると言う透くん。なのでトランプやジグソーパズルとかならやったことがあるらしい。ならアプリとかでやろうと誘われそうなものだが、勉強とスポーツに打ち込んでいたのでそれどころではなかったようだ。
「へぇ、スポーツねぇ。確かに運動部っぽいよね」
「はい。柔道をやっていました」
警備員になるにはそれくらいのことはしていないと採用されないのだろうが、確かにやってたっぽいなという体格はしている。というか、休みの日も体を鍛えていることはしているような感じはするのだが……。
「とりあえず、一つくらいやってみなよ? 面白いんだよ、これが」
と俺は話を切り替えるように言い、戸惑う透くんのスマホに麻雀アプリをインストールさせる。あの、ルールが分からないんですがと言う透くんに、俺が教えてあげるからとか適当なこと言って半ば強引に麻雀仲間にした。
そうして、透くんは入院中、オンラインで度々麻雀アプリの中で遭遇し、対戦をすることも増えていった。麻雀のルールも透くん自身で調べているみたいだ。暇な入院生活が少しでも退屈しのぎになったのなら嬉しいと、俺はそんな軽い気持ちでいたのである。