第8章 見舞い
予想外の発言に、俺は透くんの顔を覗き込んだ。透くんは俯きがちになり、こちらと目が合わなかった。
「その元同僚は、会社の考え方に反対意見を持っていて。それで辞めたんです。自分は自分のやり方で警備するって」
「それが、透くんを刺すことだったの?」
「分かりませんが……」透くんは言葉を切った。「元同僚は、警備員として行き過ぎた行動をしたんです。護衛主のストーカーしていた人を探し出し、脅しをかけるという」
そんなことが出来るのか、そういうのに疎い俺には分からなかったが、確かに警備員との契約上には、被害は現行のみだというのは書いてはあった。加害者を探し出したりすることは、本来は警備員としての仕事ではないのだろう。
「じゃあ、透くんが刺されたのって……」
「俺や、会社への恨みが大きいと思います」
俺は、昨日パトカーに乗っていた暴れる男を思い出してゾッとした。あんな体のデカい荒々しい人間が家の前まで来たという事実。俺じゃ絶対死んでいた。
「ですが、今度は捕らえることが出来たので、今度は貴方の護衛だけに集中出来ます」
「いやいや、今は休んでいいのよ」
こうやって見ると、俺は改めて、一人じゃ無力だなぁと痛感する。いや、一人じゃなくても無力なのか。こんな若い子に守ってもらうことしか出来ないなんて。俺ってダメなやつだなぁ。
「俺ってダメなやつだなぁって思いませんでした?」
「え」
内心を見抜かれて俺はすぐに透くんへ視線を向ける。
そこにいる透くんはすでに怪我をした人ではなく、仕事上の真っ直ぐとした目でこちらを見つめていた。
「貴方には貴方の出来ることをして下さい。私は私の出来ることをやります」
その低い穏やかな声は大きくもないのに俺の中でトンネルみたいに響くみたいだった。そして俺を重い気持ちにさせるには充分な強い言葉で。
「だけどさ、俺なんも出来ないし。本当に怪我させちゃってるし、俺なんて何も出来ないダメなやつだよ」
「怪我をしたのは貴方のせいではないです」透くんは言葉を続けた。「俺は貴方のように上手に喋ることも出来ませんし、ゲームをやる程器用さもないんですよ。貴方を必要とする人はたくさんいるでしょう?」