第12章 迷走ランデブー※

「悟くん…そら愛ちゃうで…。」

直哉の言葉に仁美は目を見開いた。

直哉はそう笑って言ったけど、悟を諭す様に言葉を選んでいた。

悟と話すと極論にしかならなくて、いつも答えは迷走した。

直哉の一言はその迷走を一掃した位に胸に沈んだ。


確かに、愛に関しては悟より直哉の方がよっぽど価値観が合うようだ。



「はぁ…分かってる…。」

分かってるって…と悟が横で呟いていた。

悟がそう呟いたのを聞いて、仁美の胸はギュッと締め付けられる様だった。

誰かに止めて貰いたかったのかもしれない。

悟の愛し方が間違っていると分かっていても。

彼のその感情に胸が高鳴った。

そう求める悟に馬鹿みたいに嬉しくなって何度も何度も。

それでいいと…。

簡単に悟に満たされる自分の気持ちに。

自分達だけしか幸せになれないその世界でもいいと。

この世界に悟と2人しかいない完璧な世界を自分も望んでいたと。



（馬鹿な妄想をした…。）

簡単に悟の世界に沈もうとする自分を。

そう……。

誰かに止めて貰いたかったのかもしれない。

仁美は目を瞑ってフッと笑った。



「直哉さん……。」


仁美は小さい声で直哉を呼んだ。


そう言った仁美の表情、彼女の音量…。

仁美がこの先何を言おうとしているのか悟はすぐに分かった。

「…私を…愛して下さい。」


身も心も直哉に捧げよう。

多分それが……正しいのだ。



もっと胸がスカッとすると思っていた。

悟の恋人である仁美が自分に縋ってきたのなら。

あの五条悟が愛した女を自分のモノにできるなら。

直哉はスッと目線だけで悟を見た。

仁美がそう言った時の悟の表情を見て、スカッとする気持ちはそんなに湧かなかった。