【呪術廻戦】五条悟から逃げたいので呪詛師目指します【R18】
第10章 今世の約束※
それでも、一番最初の一年だけは鮮明に覚えていた。
今なら分かる。
初めて会ったあの日に、悟は随分と色々と我慢をしてくれた様だ。
(…あんな立派なソファが簡単に壊れるはず無いのに。)
仁美は笑みを浮かべて当時の悟の動揺ぶりを思い出す。
優しい人が好きだと言った。
それは誰かを想像していた訳ではなくて、必死に仁美の顔色を伺う悟を見て。
この人の様に優しい人が好きだと思ったんだ。
あの頃はまだ、傑の真似もしていなくて。
あの優しさは悟自身のモノだったはずだ。
(…本当に私達は…。)
何処で道を間違えて、こんなにも複雑に絡み合ったのだろう。
ガタンと電車が止まり、終点に着いた様だ。
仁美はゆっくりと腰を浮かせて、電車から降りた。
外は少しの明かりしか無い、小さな町だ。
駅の名前を見ても、スマホがない為ここが何処なのかは分からなかった。
仁美は駅の看板から目を離して、ホームを見た。
暗いホームで見えた人影に、仁美は目を細める。
「……気が済んだ?」
悟の声を聞いて、仁美はフッと笑った。
「……冥さんは?」
「冥さん?」
仁美の言葉に、悟は不思議そうな顔をすると仁美は目を伏せて口角を上げた。
「お腹空かない?帰ろう?」
サングラスの奥の悟の目は、あの時の様に仁美の様子を伺っている様だ。
仁美は悟の伸ばした手から目を離して、駅前の建物の明かりを見た。
「今日はあそこに泊まる。」
明らかにラブホテルの明かりに、悟の顔が歪んだ。
きっとまた、仁美の試し行動だろう。
それが分かっていても、仁美にはNOとは言えないのだ。