第1章 転落
「ずっと食べていられるよ」
「ちょっと!それは私が選ぼうとしてた物よ!よこしなさい!」
「ええっ僕が先にとったじゃないか」
カップに入ったマフィンを取り合っている2人。
いつ目覚めてしまうか分からない不安の中で、幸せは無限に与えられる。思わず頬が緩む。その度に夜が怖くなる。目が覚めて地下牢に戻っていたらどうしよう…と。
「食べないとなくなるわよ?」
そう言って親切に私の手の上にマフィンを乗せてくれたカルタ。
父のマフィンを食べるのは久しぶりだ。優しい甘さが大好きで作り方を教えてもらったが上手く作れない。
『ありがとう』
「これも美味しかったよ」
「何言ってんのよ!ティフェパパのお菓子は全部美味しいわ!」
「そう意味で言ったんじゃなくて」
「じゃあどういう意味なのよ!」
2人の関係が羨ましかった。
そんな2人を見ていたら建物から少年が出てきた。
脇に大きな鳥の本を抱えているマクギリスを見てカルタが反応する。
マフィンを持ってマクギリスの目の前に立ち止まった。
「やっと出てきたわね!」
マクギリスはガエリオと同じ制服を着ており、初めて会った時とは違く綺麗な風貌だった。
「僕に関わらない方がいいですよ」
マクギリスは控えめな子供だった。
「なんですって?そんな事は私が決める事。このマフィンをかけて木登りの勝負よ!」
マフィンを見て不思議そうにしていた。
こんな事があった様な気がした。
私はただ2人の対決を見ていただけで、彼の隣に立とうとは思わなかった。
「ティフェ!早く来なさい!3人で勝負よ!」
「え!?ティフェもやるの!?」
「当然でしょ。あんたはどうするの?」
「やらないよ」
『私もやる』
賛同するとガエリオが驚いて声を上げる。
カルタに連れられてやってきたマクギリス。
この時の彼は小さかった。
初めて彼を見下ろして気持ちが落ち着かない。
憎いのか、嬉しいのか…
「いい?先に私が登るわ!ガエリオ、時間測りなさい」
ズンズンと登るカルタは早かった。
「ティフェ!来なさい!」
『うん!』
負けたくない。
誰かと争った事はないが、マクギリスには負けたくなかった。
マクギリスを睨みつけると眉を寄せる彼から目を逸らして木に足をかけた。
あの日からズボンに変えて随分登りやすくなった。負けたくない一心で足を上げる。