第1章 転落
「ティフェ!気をつけて!ゆっくりね!」
心配症のガエリオの声が背中を押してくれる。
一歩一歩上に登るとカルタが手を伸ばしてくれた。手を取ると引き上げられて太い枝に座る。
『わーー!』
木の上から見下ろすと全てが小さく見えた。ガエリオが米粒だ。
「ティフェ、私はずっと隣にいるわ。だから何かあったら直ぐに言いなさい」
手を繋いだままカルタは真剣に私を見つめる。
初めて言われた言葉。
都合のいい走馬灯だ。
「だからガエリオに何かされてたなら私に言いなさい」
ガエリオをずっと疑っている様だった。
『ありがとうカルタ』
カルタに抱きつくと下で見守っていたガエリオが悲鳴を上げた。
もう思い残す事はない。これで私は地獄に落ちたって後悔しない。
一生分の幸せを噛み締めていると、騒いでいたガエリオをカルタが怒鳴りつけた。
すると黒いリムジンがやってきた。
召使いがドアを開けると金髪の少年が降りてきた。
質素な黒い服を着ていたが綺麗な金髪とエメラルドグリーンの瞳が木の上にいた私とカルタを見上げた。
頭を殴られた様な衝撃。
私が彼に初めて会って、初めて心を奪われた瞬間だった。
幸せな時に彼が突然現れた。
「アイツ一体何なの?」
建物の中へ入って行った少年の影をずっと追っているカルタ。
『さあ、私たちには関係ないよ』
「そんなの分からないじゃない!」
『気になるの?』
「そんなんじゃないわよ!」
「ねー!いい加減降りてきなよー!」
反論するカルタを置いて木からゆっくり降りると手を伸ばしていたガエリオがホッと息をついた。
「もう、木登りはしないでね」
『どうして?上からの景色綺麗だったよ』
「危ないじゃないか!」
「あんたってホント怖がりね」
「違うぞ!」
カルタとガエリオの言い合いは毎回カルタが勝つ。懐かしくて頬が緩む。
そして、この走馬灯は終わる事なく続き3日目になった。
「やっぱりティフェパパが作ったマフィンは美味しいね」
レースのレジャーシートの上でお菓子を広げて食べている私とカルタとガエリオ。
毎日決まって3人でいる。
学校も休み時間も放課後も休日も。
それでも飽きることがないのは性格が真反対だからだろう。