第1章 転落
「わ!」
外に飛び出すと幼いガエリオ・ボードウィンが目を見開いて驚いた。
『ガエリオ!』
「こんにちは」
笑ったガエリオは手を振ってくれる。
「今日はクッキーを焼くからお腹空いたら戻っておいで」
ひょっこりと玄関から顔を出した父。
「ありがとうございます」
ガエリオが笑顔で返事を返した。
冷たかった体が徐々に暖かくなる。
今は死んでしまった彼らが最後に会いに来てくれたんだ。
涙など枯れてしまったはずなのにポロポロと頬を伝う。
それにカルタ達はギョッとした。
「ティフェ!?ガエリオ!貴方何かしたの!?」
「ええっ!?僕何もしてないよ!」
「ティフェ!どこか痛いのかい!?」
「僕じゃないよね!?」
ガエリオに詰め寄るカルタと私の目の前に膝をつく父。
どうか覚めないで欲しい。この瞬間が続いて欲しい。
『私…皆んなと、一緒にいたい』
わんわんと泣くとガシッと肩を掴まれた。
「当たり前でしょ!何泣いてるのよ!」
狼狽える父を跳ね除けてカルタが抱きしめてくれた。
「早く泣き止んで木登り行くわよ!」
「今日は辞めたら?ティフェパパがクッキー作ってくれるんでしょ?」
「何言ってるのよ!私は今登りたいの!」
「でも…」
ガエリオが私を見て心配そうに眉を下げた。
『大丈夫、私木登りしたい』
涙を拭って真っ直ぐカルタを見ると嬉しそうに笑った。
「ほら!本人もそう言ってるじゃない!行きましょう!」
カルタはしっかり私の手を掴んで走り出した。
この一瞬を大切にしたい。
妄想だとしても彼女について行きたかった。
大きな庭に着くとカルタはスイスイと木の上に登り始めた。ワンピースを着ているのによく登れる。昔は感心してたが、今は見ているだけじゃ勿体ない。彼女と同じ場所へ行きたい。
その思いで太い木の幹へ足を引っ掛ける。
「ティフェ!?」
ガエリオが慌てて私の腕を掴んだ。
いつも見ているだけだった私がそんな事するとは思わなかったのだろう…
「怪我するよ!辞めた方がいい!」
「ちょっと!余計なこと言わないで!早く来なさい!」
『今行く!』
「ええっ!!?」
ガエリオの手をやんわり解いて一歩づつ足をかけて登っていく。
そういえば木登りはしたことなかった。