第1章 転落
「ティフェ!帰ったぞー!」
父の仕事は惑星間空間に存在している個体物質の研究だった。
その部品で医療機器やモビルスーツの部品を作っているらしい。
沢山のカプセルを大きなリュックに詰め込み泥だらけの姿はどう見ても上流階級には見えない。
帰ったら父は必ず私の頭を撫でてくれた。
幼い頃はドレスが汚れるから嫌いだった。
でも今は懐かしくて幸せに感じる。
「ん?今日のティフェは大人しいなぁ。具合でも悪いのか?」
いつもなら手を振り払い『お風呂行って!』という私が大人しく父を見上げていることに驚いたようだ。
慌てて岩をも思わせるリュックを床に置いておでこに手をつけた。
結婚してから父とは離れて暮らしていた。
5年ぶりの父の走馬灯は若くて活発だった頃の思い出のようだ。
『お父さん、私間違っちゃった』
マクギリスと結婚しなければ、
彼を追いかけてカルタやガエリオに愚痴をこぼしていた方が楽しかった。
父は私が何かに反省しているのだと察して子供を慰める様に笑ってくれた。
「間違えちゃったのかー、パパも良くあるよー。でもこれから直せばいいさ。ティフェはどこに出しても恥ずかしくないレディーなんだから何も心配いらないよ」
つんっと鼻を突かれた。
その笑顔は不細工だがホッとするものだった。
最後に父に会えてよかった。
『ありがとう。お父さん』
お礼を言うと目を丸くしてからデレた様に顔を崩した。
そういえばよくこんな顔してたな…
「ティフェ!!!私がきたわよ!!!!」
自動ドアが優しい音を立てて訪問者を伝えた瞬間に、甲高い子供の声に肩が跳ね上がる。
バタバタと現れたのは、まるまろの幼いカルタ・イシュー。
「もう!遅いから迎えに来たわよ!今日は木登りの約束でしょ!」
『え、木登り?』
可愛いカルタに魅入っていると私の手を両手で握りしめた。
カルタは昔から図々しいところがある。言い方はアレだが、私の知らない世界へ連れて行ってくれる彼女が大好きだった。
「こんにちはイシューちゃん」
「こんにちはティフェパパ」
カルタの返事に更にデレた顔をする父。
『カルタ!行こう!』
「勿論よ!」
父がお茶やお菓子を出す前にカルタの手を引っ張ると隣に並んで駆け足で玄関を飛び出した。
まさか走馬灯に幼いカルタまで出てくるとは驚いた。