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2度目の人生は鉄華団 三日月

第1章 転落



「すまない、ティフェ」

地下牢に入れられ冷たい石の上で力なく座り込んでいる私に眉を下げた夫が残した最後の言葉。父を死に追いやったのは夫だった。

父の死は夫の圧力により、自業自得と判断され私の話は誰も聞き入れてくれない。私は目の前で父が死ぬところを見たのに…
諦めきれず行動を起こしていたら、精神疾患だと診断されて精神病院の地下牢に幽閉された。

数2年してようやく彼が現れた。
開口一番に言われた言葉だけを残して去っていった夫。

看護師の話では新しい婚約者が見つかったらしい。
死んだ親友、ガエリオ・ボードウィンの妹であるアルミリア・ボードウィン。彼女とは面識がある。一体何が起こっているのか…

確かに彼女の誕生日パーティーに夫が出席していることを聞いたことがある。よく家に行っているのも知っていた。
でもそれは親友の妹だからだと思っていた。
しかし思い返せば私の誕生日のパーティーを開いたこともなければ祝いの言葉を受け取った事もない。

慕っていたのは私だけだった?

彼から愛していると言われたことは一度もなかった。
結婚式も誓いのキスはなかった。
手を繋ぐこともなければ一緒に食事をしたのは人生で2回ほどだ。

それでも優しく笑いかけてくれた夫。
愛されていると信じていた。

父も親友も死んで、私の味方は一人もいない。
たった一つ手の中にあるのは2年前に封筒に入っていた親友、カルタ・イシューの髪の毛束。結局彼女の葬式にも行けなかった。

『ま…く…ぎりす』

ガサガサに乾涸びた口で夫の名前をひたすらに呟く。
今までの事は冗談だと笑ってほしい。
でなければこの内側から溢れる感情が爆発し胸が裂けそうだ。

あの時に戻りたい。
彼を知らなかった幼い私に伝えたい。
マクギリス・ファリドを好きになってはダメ。
だって彼は私を何とも思ってないのだから…

身体のだるさで冷たい石の上に倒れ込む。
熱が吸い取られていく。

寂しい。会いたい。
このまま目を閉じたら父やカルタ、ガエリオに会えるかな…

気力もなく目を瞑る。
脳裏に浮かぶのは憎いマクギリス。

胸が締め付けられる。
憎い。お前のせいだ。
どうして私だけ閉じ込められて彼は外で自由に動いているのか。

楽しいことだけ思い出したいのに、脳裏に浮かぶのは綺麗な笑顔で話しかけてくれたマクギリス・ファリドだった。
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