第4章 鉄血と血と(1話)
考えることは沢山あるはずなのに
走っている時は何もかも忘れられた。
『どうしたら私もお嬢様みたいな匂いになるかな?』
隣を走っていた三日月がこちらを向くも表情は芳しくない。なんでそんな顔するのさ、悲しいじゃん。
「まだ言ってるの?」
三日月は少し呆れている様子。
それでもしっかりと足を前に出して走る速度は落とさない。
あの匂いを出せれば三日月も惚れ直すに決まってる。いい匂いと近づく度に誉められるだろう。考えるだけで気分がいい。
『お嬢様と話す機会があれば良いんだけどなー』
三日月が機会を作ってくれないかと期待を込めて彼を見ると逸された。とりもってはくれないらしい。
「いつか聞けるんじゃない?」
『えー、いつか?』
「いつか」
前を向いてこちらを見ようとしない三日月。機嫌を損ねたらしい。機会は自分で作らないといけないようだ。三日月はお嬢様の話をすると冷たくなる気がする。嫌な思い出でもあるのかな…まさか私に直して欲しい所があるのかもしれない。
『ミカは、お嬢様好きじゃない?』
ドキドキしながら聞くと三日月が呆れたようにハッキリと答えた。
「興味ない」
興味ない。それは冷たい言葉のように感じた。自分の出身を隠しているはティフェはキュッと胸が苦しくなり思わず足を止めた。足音が消えて振り返る三日月も様子を伺う為に止まる。
「ティフェ?」
名前を呼ばれて顔を上げると海のように深い青瞳に釘付けになる。何もかもを見透かしてしまうような綺麗な青。
『ミカは綺麗だね』
「は?」
私は三日月の様に素直になれない。ここまで飛び出してきたものの、子供の皮を被って父や自分より下の子供たちに救われている。自分が無力でしかたない。早く活躍出来る機会が欲しい。もっと強く、もっと安心できるように…
『私もミカみたいになりたいな』
悲しそうに呟くティフェに三日月が声をかけようとしたら信号弾が上がった。それは敵襲を伝えるものだった。
『!ミカ!!』
上着を気直した三日月と共に車庫へ戻る。敵襲?タイミング的にも狙いはお嬢様なのかもしれない。
どうして大人達は女、子供を狙うのだろう…