第4章 鉄血と血と(1話)
『お嬢様は花とか持ってるの?』
「花?持ってませんけど…どうして?」
『とってもいい匂いだから!素敵!』
素直に伝えるとクーデリアの頬がほんのり赤くなった。そしてうっすら笑みを浮かべる。こんなむさ苦しい男集団の中に現れたお嬢様。護衛と言うことは誰かに狙われる可能性がある。まだ若いのに過酷な人生なのかもしれない。少しでも気が和らぐように笑顔を向けた。
「ティフェはそのままでいいよ」
眉をひそめた三日月は変な事にハマらないように早くティフェを戻らせようと肩を押すと、ティフェはされるがまま。抵抗する事なくくるっと反転して三日月を見上げる。
「おやっさん待ってるんじゃないの?」
『えー、そうだけど…お嬢様…』
「後でね」
「…はーい」
仕方ない。
別に急ぎの用もないのに雪之丞は、すぐ遅いと怒るのだ。段ボールを抱え直してクーデリアに軽く頭を下げる。
『お嬢様!また後でお話ししましょうね!』
「ほら、ちゃんと前見て」
三日月は未だクーデリアから目を離さないティフェの背中を押してその場を退場させる。そんなティフェが角を曲がり見えなくなるまで背中を見続けた。
「あの…彼女は?」
「ティフェ、ここで働いてる」
「女の子が?意外です」
驚いて口元を抑えるクーデリアに視線を戻す。
「ティフェだけだよ」
「だけ?」
「CGSは女を雇わないから、ここにいるのはティフェだけ」
「え?どうしてティフェは働けているのですか?」
女を雇わない場所で働く女の子。意味がわからず聞き返すクーデリアたが三日月はティフェが去った方向に視線をずらす。
「知りたいなら、詳しくはオルガに聞いて」
答えるかは分からないけど、という言葉は飲み込んだ。三日月はなぜかティフェにクーデリアを合わせたくなかった。
昨日から顔を合わせればお嬢様、お嬢様と目を輝かせている。それが気に入らない。傍にいたいのにモヤモヤする理由が分からない。三日月はクーデリアを見上げる。…面倒なことを覚えないといいのだが。
三日月は案内を再開する。