第8章 土方 揺れる匂いとその動き
「へ?土方さん、髪の毛結んでくれるんですか?」
「あ?こんなことで仕事さぼられても困るだけだ。」
ぶっきらぼうな言い方とは逆に、髪の毛をすいたり撫でたりする手が優しくて心地よかった。
「ほらよ、これで文句あるか。」
パッと手が離れ、
部屋にある鏡に視線を移す。
「おぉ…すごい綺麗にまとまってる…」
髪の毛の束はいい高さに結われ、いいまとまり。
つい感嘆の声が漏れた。
「少しは仕事する気になったか。」
NOとは言えなかった。
「それにしても、髪の毛サラサラだな。お前が結べないって言う理由もわからなくはねェ。」
「あ、土方さん、この髪紐どうしたんですか?」
そういえば私は何も渡していない。
「俺が昔使ってたやつだ。」
「え、それ使っていいんですか?!返します!私の部屋からちゃんと持ってくるんで!」
「おいおいおい。そのまとめにくい髪を俺にまた結べっていうのか?」
確かに。
とても綺麗に結ってくれたこの髪をほどくのはもったいない。
「お前にやるよ。別になんてことねぇただの髪紐だ。」
私なんかがもらっていいんだろうか。
なんだか恐れ多い。
「土方さん。一つお願いしてもいいですか?」
「何だ?」
さぁいい加減行くぞ、と腰をあげた土方さんを呼びとめた。
「明日も髪の毛結んでもらえませんか?」
土方さんは少し考えるかのように、
新しい煙草に火をつけた。
「…それでアキがちゃんと仕事するってんなら結ってやるよ。」
「本当ですか?!ありがとうございます!
土方さん!早く見廻り行きましょ!」
そう言って、私は土方さんよりも先に部屋を出た。
後ろで土方さんの溜め息が聞こえた気がした。
最初のものとは違う意味の。
髪の毛の調子も抜群に良くなって、
気分はもうルンルンだった。
―――女の子の神経は髪の毛一本にまで張り巡らされているらしい。