第8章 土方 揺れる匂いとその動き
~見廻り中のお話~
朝っぱらから仕事したくないと駄々をこねていたかと思えば、
俺の数歩先をスキップするかのように歩くアキ。
ったく、めんどくせぇのか扱いやすいのか。
初めてアキの髪を触った。
思っていたよりも細く、指通りもなめらかだった。
自分の髪の毛とは明らかに質の違う柔らかいもの。
毎日この髪を後ろが見えないまま結んでたことの方がすげぇなと感心しながらアキの髪を結っていた。
「土方さーーん!遅いですよ!」
数歩先にいたはずのアキが気付いたら少し離れていた。
だからといって特に歩を早めることもなく、アキと合流する。
「何かボーっとしてますね。土方さんも何か調子悪いですか?髪の毛?」
「そんなくだらない理由でさぼるわけねぇだろ。てめぇと一緒にすんな。」
はいはい。とアキは髪の毛を揺らしながら笑う。
「おいアキ。」
「はい?」
「他の奴に髪の毛結わせんじゃねぇぞ。俺がやる。」
当たり前のように言い放ったが、
よく考えたら意味のわからないことを言ったと後悔した。
「…?当たり前ですよ!土方さんの手優しいですもん!」
ただその髪を他の男に触らせたくないと思っただけだった。
アキの独特ないい香りを独占したいと思った。
髪を結ってやるなんてらしくもねぇが、
自らそれをしたくなる何かをこいつは持っていた。
「ったく、歩くの早ぇんだよ。」
また少し先に行ってしまった揺れる髪を
今度は早足で追っていった。