第17章 桂 頑張るのをやめる
「俺はアキが好きだ。」
単純なその一言に反応して
目頭に熱が集まる。
やめて、泣きたくない。
「もし1人だと感じても、
俺がいる。
アキを1人になんてしない。」
集まる熱に
抵抗しているのがわかったのか、
小太郎の少し冷えた手が
私の目を冷やしてくれた。
その手に覆われた視界は
真っ暗なはずなのに、
安心感に包まれた。
「だから、
そんなに怯えなくていい。」
「……ありがとう。」
小さく漏れたその言葉は
もしかしたら小太郎に
届いていないかもしれないと思う程に
か細かった。
そして、
少し引いたと思った熱は、
勘違いだったようで、
一度押し寄せた波に抵抗するのは
不可能だった。
私は
小太郎のお腹に顔を向け、
しがみつくように顔を伏せた。
小太郎の着物を
濡らしてしまう。と思ったけど、
きっと彼なら許してくれるだろう。
根拠がないはずの
こんな安心感に
これ程縋れるなんて。
小太郎の着物を
グッと掴む私の手とは裏腹に、
髪を撫でてくれる
小太郎の手は
優しすぎるものだった。