第6章 蒼炎を慈しむ※荼毘
「昨日、運転手を撒いたって?」
電話の向こうで、ホークスが機嫌の悪そうな声でゆらに言った。
荼毘に会いたくて、倉庫から抜け出した後の事だろう。
「………………。」
ゆらが何も言えないでいると、電話の向こうでホークスのため息が聞こえる。
「……死柄木を追っているんじゃ無くても、ヴィラン連合の誰かなんだろ?」
ゆらのその衝動の相手は。
その問いにも、ゆらは答えなかった。
「…… ゆら。」
「うん。」
返事をしないゆらに、ホークスは名前を呼んだ。
「俺が何を懸念しているか分かるか?」
「……うん。」
ゆらの衝動が大きくなり、自制が効かなくなる事。
最悪は、ヴィランに堕ちること。
「…俺はお前を捕まえたくない…。」
犯罪者一歩手前の言われ方だ。
いや、ヒーロー志望なのに、荼毘と情欲を貪っている時点でそうなのだろう。
「……ホークス……。」
ゆらは力の無い声で、ホークスを呼んだ。
「……生きづらい…。」
ソレは初めてゆらが口に出した言葉だった。
ホークスは持っているスマホをギュッと握った。
「今忙しくて、そっち行けないから、週末はゆらがこっちに来て。」
「…うん…。」
会って顔を見て確認したかった。
その本心を、どんな顔で言ったのだろう。
ゆらは電話を切ると、ため息を吐いた。
(……誰か縛りたい…。)
急に襲ってくる虚無感。
ゆらはギュッと目を閉じた。
(違う…誰かじゃなくて、荼毘しか居ない。)
顔を両手で覆って、ゆらは俯いた。