第5章 蒼炎を逐う※轟焦凍
目の前の可愛い被食者をどうすればいいのか。
ゆらはギュッと高鳴る心臓を抑えて、堪えるのが精一杯だ。
「…轟を縛らせてくれたら、落ち着くかも…。」
それは轟が思っている様な、恐怖の不安感では無い。
昂りの話だか、その事は轟には分からない。
いつも挨拶の様に言っているゆらの言葉に、轟は慣れてきたのだろうか、さほど考えずにゆらに答えた。
「ソレで、秤の気持ちが晴れるなら…。」
いつもの様に、軽くあしらわれると思っていた。
轟の提案に、ゆらは目を見開いて驚いた。
絶対に、轟はそう言った自分が、ゆらにどんな風に扱われるのか分かっていない。
それでも、沸き起こってしまった衝動は抑える事ができなかった。
「……お願いします…。」
ゆらがジリっと、自分に近付いてきて、轟は思わず後退した。
「…ここでは無理だ…。」
流石に、こんな屋外で、ゆらに縛られている所を、他の人には見られたく無い。
轟は慌てた様に、ゆらに拒否のサインを出す。
ゆらはグッと、沸き起こる感情を抑える方が大変だった。
轟が今、何を言っているのか、本人は全く自覚が無い。
人目を避けて、ゆらの捕食対象になったら、その方が危険だと言う事を、全く理解していない。
雄英の同級生と言う、安心感が轟を無防備にさせているのだろうか。
ゆらはため息を吐いて、轟から目を逸らした。
ダメだ。
密室で、轟に個性を使った時、最悪はホークスの二の舞を轟にする事になる。
流石に轟にそこまでする気にはなれない。