第21章 オリジン※荼毘・死柄木
「……焦凍………、私……、荼毘が好きなの…。」
ゆらから荼毘と言う名前が出て、焦凍は一瞬体が固まった。
ゆらに好きな男が居て、それがヴィランだと言う事は何となく分かっていた。
それがよりにもよって、あの荼毘と言うことに思考が止まってしまった。
「ゆら……ちょっと待って……。」
ポロポロ涙を流しているゆらを、交通人がチラチラ見ている。
ここで話を続ける訳には行かなかった。
「……場所を移動しよう……。」
焦凍がそう言うと、ゆらはグズッと鼻を啜った。
そしてスマホで今日泊まれるホテルを探した。
少し距離があったが、泊まれる場所が見つかり、焦凍に伝える。
歩けば30分位掛かるが、ちょうど良かった。
この混濁した頭の中を整理するには時間が必要だった。
ずっと泣いているゆらの手を握った。
焦凍が手を握っても、俯いているゆらの顔は上がらなかった。
焦凍は目を細めてゆらの手を引く様に歩き出した。
『荼毘が好き』だとゆらから聞いて、その意味がやっと理解出来た。
ゆらとは少し強引だった付き合い方かも知れないけど、ゆらからの気持ちを貰えた様な瞬間は確かにあった。
なのに……ゆらはずっと他の男が好きなままだった様だ。
その事実が胸を痛めて、焦凍の顔も俯いてしまった。
ゆらにかける言葉も見つからず、2人はただ下を向きながら歩いて行った。