第17章 蒼炎の教育※治崎
何だ……荼毘はこんな気持ちなのか…。
それはその瞬間の情欲を満たすにはちょうど良く。
それ以外でもそれ以上でも無い。
こんな事をただ繰り返している荼毘に、胸がギュッとなった。
ただ自分の情欲を満たすだけの毎日に、急に割って入って来たゆら。
持て余すには充分だっただろう。
「…ん……はぁ……。」
治崎の唇が離れればゆらの口から息が漏れる。
はぁ、はぁ、と息を漏らしながら、ゆらは治崎を見上げた。
どうしようもなく、情欲を表す治崎の顔がゆらを見下ろしていた。
「……どうしたらいいか、分からないの?」
ゆらは目を細めて治崎に聞いた。
「……いや……。」
治崎はギュッとシーツを握りしめた。
「…この先を知ってしまったら、もう戻れなくなりそうで手が出ない…。」
初めて情欲を満たしたいと思ったこの気持ちを。
ゆらで満たしてしまったら、その先はゆらでしか何も満たされなくなりそうだ。
それが治崎を躊躇させる。
その感情はゆらも良く知っていた。
荼毘に触れれば戻らなくなると分かっていた。
でもあの日、月明かりの下で。
荼毘を無視する事なんて。
その方が絶対出来なかった。
ああ、治崎はまだ躊躇う位置でまだ抗える様だ。
「……は…オーバーホール…。」
ゆらはスッと目線を治崎に合わせる。
「辞めときな…その先は何も手に入らない…。」
必死に荼毘を手に入れようと伸ばしたあの時の手は。
今は空中で何も掴めていない。
そう言って目を伏せたゆらの顔を、治崎が掴んだ。