第14章 蒼炎遊戯※治崎廻・荼毘
ゆっくりと治崎が近付いてきた。
次にこの男のする行動が手に取るように分かる。
「?!」
治崎の手が伸びて来て、鎖を出そうとした時にその異変に気が付いた。
鎖が出なかった。
(……最悪だ。)
ゆらは目をぎゅっと顰めた。
寝ている間に薬を打たれた様だ。
入院着の様な、治崎が血肉を取りやすい服には、いつも腰に付けている鎖も無かった。
「………修復が遅かったら死ぬぞ。」
さっき鎖をかけられ、拒絶されたことがよほど気に入らなかった様だ。
ゆらは伸びて来た治崎の手を叩く様に払った。
「…触らないでって。」
そう言いながら、心臓が痛いくらいに鼓動している。
個性が使えない事に頭がおかしくなりそうだ。
自分は個性が使えなくても、そこそこ強いと思っていた。
どれだけ個性に頼っていて戦ってきたかが分かる。
(…これは確かに恐ろしい薬だ…。)
この個性社会において無個性でいる事が、こんなに自身の生存本能に危機感を覚えさせるとは思っていなかった。
自分は個性が使えないのに相手は個性持ち。
(…いつも私が荼毘や死柄木にしている事はこんなに恐ろしい事なんだ…。)
なのに彼らはゆらに身を任せる。
それは好きだと言われるよりも、遥かに気持ちを表してくれている行動に思えた。
荼毘と死柄木の様に、目の前の治崎には到底出来なさそうだ。
「……頼めばいいのか?」
治崎の言葉にゆらは目を細めた。
「頼まれても嫌…。」
冷たいゆらの目が、治崎を見もしない。
その目でもいいから治崎はゆらに見られたかった。
「……荼毘か死柄木呼んで…。」
今自分の身を預けるのはこの2人しかいない。