第10章 蒼炎の衝動※荼毘
ゆらの言葉に、荼毘は満足そうに笑った。
「後悔するなよゆら。」
後悔?
荼毘が捕まった時の話だろうか。
残念だが荼毘と出会って1度も。
後悔なんてした事が無かった。
手に入らない苦しさも。
共に生きていけない悲しさも。
ヒーローとヴィランと言う立場の葛藤も。
ゆらは荼毘の胸元の服を掴んで引き寄せた。
荼毘の唇を奪うと、その感触に目を閉じる。
この瞬間、全ての感情は弾け飛んでただの女になる。
その気持ちが幸福と言う感情ならば、全ての葛藤もその糧になるだけだ。
だから荼毘。
コレが最後のキスにならない様に。
「せいぜい頑張ってね荼毘♡」
ゆらは唇を離すと、ニッコリ笑って荼毘に言った。
はっと乾いた息が荼毘から漏れた。
「イカれ女、覚えておけよ。」
そう言って笑う荼毘に、ゆらは背中を向けた。
まだ戦闘が続いている村に到着すると、ゆらは飛行型の脳無の背後に飛び、鎖で縛った。
飛行は個性だったのだろう。
脳無はそのまま落ちていき、地面に叩きつけられると、その上にゆらが乗った。
「っ!お前何処に居たんだ。」
ゆらの遅れた到着に気付いて、同行していたヒーローが苦々しくゆらに聞いた。
「…周辺の片付け。」
ゆらがチラッと黒煙を見ると、それに気が付いたヒーローがその黒煙の元に向かった。
(…1人ね…。)
さぁ荼毘はどうなるだろうか。
気にしてもしょうがないので、ゆらは次のヴィランを狙う。
彼女が到着してからは、ヴィランの捕獲は早かった。
それはゆらの個性というより、身体能力の高さからだ。