第10章 蒼炎の衝動※荼毘
荼毘が居ると思ったのは杞憂だったのだろうか。
それとも自分の願望だったのだろうか。
ゆらはぎゅっと目を顰めて、先輩達に続こうと思ったその瞬間。
荼毘の気配を感じた。
きっとゆらにだけ分かる、彼女に向けられた気配。
ゆらは村から少し離れた場所を見た。
荼毘と別れて、少しも動かなかった衝動が全身を走り抜ける。
久しぶりのその衝動が脳に命令している様だった。
脳の命令が体の神経を動かす。
何も迷う事は無かった。
ゆらはその荼毘の場所に向かって飛び出した。
脳無の惨事にゆらがいなかった事は、誰も気にしなかった。
荼毘の元に向かいながら、この状況がゆらを呼び寄せる為だったと確信する。
(……荼毘……。)
ゆらは木々を掻い潜り、荼毘の姿を確認する。
今回は不意打ちでは無く、荼毘は自分に向かってくるゆらをずっと確認している。
木から飛び出して、ゆらは荼毘を見下ろした。
「……デートの誘いはもっとスマートな方がモテるよ。」
そう言ったゆらに、荼毘はゆらを見上げて笑っている。
他の女をデートに誘ったなら、気が狂いそうだが。
「ゆら。」
荼毘もゆらを確認して、同じ様に笑っている。
その荼毘の顔を見て、ゆらは目を細めた。
荼毘の炎が右手から出て、空中のゆらを狙った。
ゆらは腰に巻き付いている鎖を目の前の木に巻きつけて、荼毘の攻撃を交わした。
ああ。
面白い。
初めて荼毘と、ヒーローとヴィランとして対峙した瞬間だった。
ゆらが右手から出した鎖も、荼毘は交わした。
今日は荼毘も本気の様だ。
ゆらは木の枝に乗って、荼毘を見下ろした。