第9章 蒼炎を悔悟する※轟焦凍
また風が吹いて、ゆらが目を瞑る。
今日は風がよく邪魔をするのに、轟の言葉はちゃんと聞こえた。
荼毘を思う気持ちがゆらの恋だと言うなら、この気持ちは何なのだろうか。
風が止んで目を開けても、轟は同じ様に顔を赤らめながらゆらを見ている。
「……気持ち悪く無い?」
「全然可愛い。」
「結構誰にでも、同じ事してるよ。」
流石に、轟の顔が歪んだ。
「…ソレは嫌だ…。」
轟は、顔が好みで、縛られている姿がとても魅力的だ。
ソレはとても、気味の悪い感情だと。
他の人が聞いたら、眉を顰める事だろう。
「…轟…。」
ゆらはゆっくり轟に近付いて、彼の腕を握った。
「今日、部屋に行ってもいい?」
轟の耳元で、囁く様に言った。
チラッと横目で見た、轟の目が歪んだ。
それでも次の瞬間に、轟の腕が背中に回った。
「…2度と、他の男にあの顔を見せないなら…。」
ゆらは轟に抱かれながら、目を瞑った。
ああ、それは…。
「無理だよ。私は異端の個性だから。」
これは、ただ好みの獲物を捕まえたい衝動だ。
どんなに、心が揺らぐ様な言葉をかけられても、それは決して、轟の気持ちを汲むモノでは無い。
ゆらは轟の胸に手を押し付けて、その体を離した。
「……きっと私は……。」
「轟を傷付ける。」
ゆらの手が、轟から離れた。
その手を轟が掴む事は無かった。
轟に背を向けて、ゆらは歩き出した。
胸が痛いのは、当たり前の事だ。
大丈夫、たいした感情じゃ無い。
これが、荼毘との失恋を感じたあの時と同じなら。
もう。
自分の感情なのか、個性の衝動なのか分からない。