第8章 蒼炎乱舞※死柄木
「こんな時間に彷徨くなんて、不良だなぁ。」
よりによって、急所の首筋にその手が伸びていた。
ギリギリ五指が触れない程度に、ゆらの細い首を片手で掴んでいる。
「…死柄木…。」
「さんだろ、年上には。」
振り返って見上げた目は、相変わらず赤くゆらを見下ろしている。
「……指名手配犯も、普通に歩いているんだ。」
隠れているかと思った。
「ああ?誰のせいで彷徨いてると…。」
そう言いかけて、死柄木は何かを思いついた様にニヤッと笑った。
「こんな偶然も無いな、いいモノ見せてやるよ秤ゆら。」
悪者は本当に悪い顔をして笑うモノだ。
嫌いじゃ無いその笑みに、ゆらは目を細めた。
死柄木に連れて来られたのは、雑居ビルの中だった。
やはり定期的にアジトは変えている様だ。
トレードマークの顔の手のひらがなければ、意外に見つからないモノなのだろうか。
ゆらは冷たい死柄木の手に、そんな事を考えていた。
沢山あるドアの中で、死柄木が1つのドアの前までゆらを連れて来た。
「…ここに…。」
「黙ってろ…。」
ゆらが言いかけた言葉を、死柄木が被せた。
ドアを開けないのだろうか。
ゆらはニヤニヤしている死柄木を不思議そうに見て、中の様子を伺った。
中に人の気配がして、途切れ途切れに声が聞こえる。
軋むベットの音と、その声色で、その中の人物達が何をしているのか、すぐに分かった。
そして、中に居る1人の内の声は、忘れた事も無い声だった。
サーっと自分の血の気が引くのが分かった。
荼毘が、今この中で何をしているか、簡単に想像出来た。