第8章 蒼炎乱舞※死柄木
「っ…?!」
確かに、1年前までは自分の後ろにくっ付いている様な後輩だった。
ヴィランを見つける猛禽類の様な目。
一瞬を見逃さない反射速度。
その全てが、この1年でひっくり返った。
(ワシは1.000メートル先の獲物が見えるんだっけか…。)
勿論ゆらがそんなに見えるはずが無い。
そんなあり得ない事を考えさせる位に、衝撃的な出来事だった。
「はい、先輩♡」
ゆらは笑顔でヴィランを引き渡す。
警察の引き渡しには、ゆらは同席しない。
手柄は彼のモノになるが、手柄が欲しい訳じゃ無い。
公安ヒーローがヴィランを引き渡す光景を離れて見ながら、ゆらはグッと拳を握った。
雄英の訓練は厳しいと思う。
しかし、ゆらの力が発揮されるのは、強いヒーロー相手じゃ無い。
(せめて、仮免にヴィランが居てくれたら…。)
今の1/3の力でも出せるかもしれない。
ヴィランを捉えるあの瞬間の高揚を、仮免までに持っていかないといけない。
(今週は狩まくろう。)
ゆらは腕を伸ばして、背筋を伸ばした。
警察の引き渡しを終えて、公安ヒーローがゆらの元に戻って来た。
「…今日はもういいや、ありがとう。」
お礼を言われても、複雑な気分だ。
そう言って、ゆらは帰路に着いた。
繁華街は子供が居ては目立つので、裏路地を歩いて帰った。
(どっかでヒーロースーツを着替えて、電車で帰ろう。)
ゆらは適当に着替えられる場所を探していた。
決して、油断していた訳では無い。
むしろ感度は、絶好調だった。
伸びて来た手に気が付かなかったのは、その手に殺気も、敵意も感じなかったからだ。