第61章 黒い雲 ①
部活が始まって少し経ってから、バレー部だった道宮先輩が体育館に顔を出した。
大地先輩に渡すものがあって来たらしい。
今週は潔子先輩が用事があるため、マネージャーは私一人。
3年生はこの時期になると進路の事とか忙しくなってくるみたいだ。
「(卒業も近づいてきてるんだよね・・)」
ダメダメ!考えちゃうと寂しくなっちゃうから、先のことはいまは忘れることにする!
ユースや代表合宿でいつもより人数が少ないけど、あちこち忙しく動き回る私を見て声をかけてくれた。
「大丈夫?手伝おうか?」
「ありがとうございます!でもだいじょう・・・」
「久しぶりにボール触ったら、自分もやりたくなるんじゃないか?」
大地先輩にそう言われて笑う。
「春高まで私も男子バレー部のマネージャー手伝おうかな?」
ジャージに着替えたあと、軽く準備運動をして動き始めた。
道宮先輩はどの部員にも気さくに話しかけ、たまにアドバイスなんかもしてる。
休憩時間には3年生の自主練なんかも手伝う。
西谷先輩や田中先輩はニコニコしててなんだか嬉しそう。
「(みんな・・・なんだか楽しそう)」
当たり前のように烏養コーチの動きに合わせてボール渡してる。
”言われた事をすぐ理解して実行できる”
「(どれも私が出来ないやつだ・・・)」
簡単なボールだしとか、サーブのボール拾いくらいしかまともに出来ない自分とつい比べてしまった。
「(道宮先輩が春高までこうやって手伝ってくれたら、もっと練習ペースも上がっていい状態になれるのかも)」
そんな事考えたら
”じゃあここにあなたはいらないね”
って誰かがささやいた気がした。
頭をブンブン振ってそんな考えを吹き飛ばす。
「(何考えてるんだ私!)」
「一ノ瀬ちゃん?どうしたの?大丈夫?」
山口くんが心配そうに見る。
「ごめん。ちょっと考え事しちゃって。大丈夫」
「今週は清水がいないから一ノ瀬一人なんだよ。今日は手伝ってくれてありがとうな」
「そうなの?じゃあ今週手伝うよ!」
私ヒマしてるし、それくらいなら出来るよって返事を聞いてまた胸がチクリとした。