第31章 合宿2回目 変化②
「あーっ!眼鏡君さ!」
「月島です・・・」
「月島くんさ!バレーボール楽しい?」
「? いや、特には・・」
「それは、へたくそだからじゃない?」
木兎さんの言葉に今度は月島くんがムッとした表情をした。
「俺はさ、バレー面白いと思ったのは最近。
”ストレート”打ちが試合で使えるようになってからだな。
元々得意だったクロスがブロックにガンガン止められて、クソ悔しくて必死でストレート練習したよ。
んで、次の大会で同じブロック相手に誰にも触れさせずストレートが決まった瞬間”俺の時代キター!”って思ったね。
・・・ ”その瞬間” が有るか、無いかだ」
そう語る木兎さんの瞳に惹きつけられる。
力強くキラキラ輝く瞳。
「目の前の敵を倒すことと、自分の力が120%発揮された時の快感が全て。
ただ、これは俺の場合だから誰にでも当てはまるわけじゃない。
お前の言う”たかが部活”っていうのも俺は分かんねえけど、間違ってはないと思う。
ただもしも・・・
”その瞬間” が来たら、それがお前がバレーに ”ハマる” 瞬間だ」
木兎さんの言葉で月島くんの表情が変わった。
「(もう大丈夫だ)」
忘れてたバッグを手に取って第3体育館を出ようとすると、赤葦さんと目が合った。
月島くんをよろしくお願いします、という気持ちを込めて丁寧にお辞儀する。
気持ちが伝わったのか赤葦さんはちっちゃくうなずいてくれた。
「(さっきの木兎さんの言葉の力、凄かったな)」
ガツン!って心に強く響く言葉だった。
今だって好きだけど、もっと好きになる・・・そんな瞬間もあるのかな?
「ハイ!質問答えたからブロック跳んでね?」
「ハイハイ、急いで」
「ちょ、ちょっと待ってください!僕、人を待たせてるので・・」
そう言って月島が入り口を振り返る。
「あれっ・・・?」
「マネージャーさんだったらさっき帰っていったよ」
「えっ!?」
焦ったように月島が入口を見つめる。追いかけるべきか悩んでいた。
「きっと安心して先に帰ったんじゃないかな?慌てないで大丈夫だと思うけど」
赤葦の言葉で、ここでブロック練習に残る決意を固めた。
靴ひもを結びなおして準備を始める。
「良いマネージャーさんだね」
「・・・僕もそう思います」