第2章 何度も夏を繰り返し
目が覚めた時には、毛布にぐるぐる巻きにされて、身動きができない状態だった。蓑虫さながら、物理的に手も足も出ない。来年には高専に入学だと決まっているのに、こんな調子では、呪術師としてやっていけない。
毛布の上から抱きつく棘に声をかけるが、「おかか」と返ってくるだけだった。彼も来年、年齢としては中学生になるはずだが、揃いも揃って幼いままだ。自覚はある。
「棘、その辺にしてあげなよ」
西瓜を片手に掲げた悟の助け船がなければ、雅は小一時間、蓑虫だったかもしれない。このまま棘の腕の中で、のんびり居眠りも悪くないと思ってしまっている。
「これ食べながら反省会ね」
夏の風物詩。どこから調達してきたものか、縞模様のくっきりとした、ツル付きのもぎたて西瓜だ。包丁を入れた途端に滴る水分から、甘い香りが漂う。
「人気の少ない場所を選んで、帳を下ろしました。高専からも近いので、職員に異変を察知してもらえるかと」
雅は、ザクザクと三角に切り揃えた西瓜の切れ端を、摘んで口の中に放り込んだ。甘い。ふんふんと話を聞きながら、悟がまな板から西瓜を掻っ攫ってしまう。
「三級程度の呪霊に見えましたが、勝ちを急ぎすぎました。もう少し削ってからであれば、安全に払うことができました」
椅子に座りかけていた棘も、慌てて雅に駆け寄った。一番大きい真ん中の一切れを手に取り、かぶりつく。口から溢れ出した果汁が、顎から滴り落ちる。慌てて口元を拭う棘に、雅は懐の手拭いを取り出した。
「今後訓練するのは、蒼を小さくして精度を上げること。呪力が乾いた時期でも、何度か打てれば、成功率は上がります」
「そこまで解っているなら、いっか」
縁側で何かに向かって種を飛ばしてから、悟は二切れ目の西瓜に手を伸ばした。