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【呪術廻戦】幾重の夏に

第4章 九夏三伏の実


「空気より水の方が、音が早く伝わるから」

ラーメンに辛味噌を加えながら、雅は呪言の対象の選別方法を、憂太に説明していた。

「その間に水鏡を使って、一般人とか、不意に当たりそうな呪術師から、呪言を跳ね返して呪霊に当たるように調節してるよ」

指先で手鏡のように作った呪力を、憂太に向ける。「へぇぇ…勉強になるなぁ」と憂太がその呪力に触れると、鏡は水のように歪んで消えた。

「あとは、棘の反動を分散させるのに使う鏡は少し質量を上げて、対象の数と呪言の強さに見合うように」

餃子を頬張る棘の横に顕現した鏡を手の甲でノックすると、コツコツと音が鳴る。

「質感よりも、角度の方に重点を置いて考えた方が早いかな」

鏡を避けるように「ツナツナ」と動く棘に合わせて、口元の呪印が正確に映るように移動する鏡が、忙しなく動いている。「憂太くんなら、すぐできると思うけど」と付け加えながら、雅はラーメンに息を吹きかけて冷ましている。

真希に「暴れたら溢すぞ」と怒られながらそっとコップを遠ざけられたので、雅は鏡を片付けた。から揚げを放り込みながら、パンダが口を挟む。

「雅、今日は随分調子良さそうだったな。呪力も余裕ありそうだし、修行でもしてきたのか?」

棘が雅を見る。彼女の呪力が増減するのは、悟と棘しか知らない筈だ。弱点については危険を伴うから秘密だと、随分小さい頃から叩き込まれたから、誰かに打ち明けた様子もない。今はたぶん、雅の呪力が満ちている時だ。

「強くなってるなら嬉しいけど…4年生になって授業がなくなったから、任務もたくさん貰ってるんだ」

小首を傾げながら、彼女はそれらしい理由を並べた。「今まで勉強してきた成果が出たのかな」と動揺ひとつ見せない雅には、棘も騙されてしまいそうだった。

雅は嘘が上手い。

一緒に育ってきた棘と雅の間に隠せるものはなかったが、他者を挟むと、こんなにも人は違って見える。不思議だが、悪くない気分だと思いながら、棘は炒飯を掻き込んだ。

本当の雅は、たぶん、棘しか知らない。
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