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【呪術廻戦】幾重の夏に

第3章 離れ離れの夏に


「雅!人だ!」

猪野の声と同時に、雅は地面から呪力を這わせる。呪霊ひとつと、人間が5人。思ってもみない人数に、焦りが出る。

ひとりは猪野。倒れている2人が、件の工事業者だろう。あとは、子どもか。

逃げ出そうとする少年が、威勢よく呪霊の気を引く猪野に向かって逃げ出す。子どもを盾に、呪霊の牙は猪野に食らいついた。脇腹に噛み付く呪霊を薙ぎ払い、体制を立て直した猪野が、背後に傷だらけの子どもを庇う。その隙に雅は、倒れている2人と呪霊の間に滑り込んだ。

「絶対助けてやる!そこから動くなよ!」

負傷にも物怖じしない猪野は、獬豸を構える。脇腹からポタポタと滴り落ちる血が痛々しいが、声を張り上げる気力はあるようだ。

猪野の闘志が消えていないことを確認して、雅は呪霊の足元に縮小した蒼を放つ。訓練通り、足止めにはうってつけのサイズだ。もう呪力の無駄遣いはしない。

足を取られて身動きの取れない呪霊を、猪野の獬豸が払う。爆発四散した呪霊とともに、トンネル内には、適正な明るさが戻った。

「伊地知さん!担架!!」

脇腹を押さえて蹲る猪野と、傷だらけの少年を交互に見ながら、雅は伊地知を呼ぶ。少年に駆け寄る女性の様子を見ると、姉弟だろうか。ふたり揃って涙目で猪野を見守っている。

「あなたたちも、一緒に来てください」

呪霊に受けた傷は、どうなるか分からない。倒れている工事関係者を警察に任せて、猪野と姉弟を連れ出す。

「情け無え〜」

「ここで反省会でもする?」

顔面蒼白な姉弟の前で、猪野は明るく振る舞った。血が流れ出る彼の腹部を圧迫しながら、雅もそれに返す。

家入の前に転がり込んだ時には、ふたり揃って血塗れだった。
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