第2章 何度も夏を繰り返し
日が暮れても全身が怠かった。夕方の雷雨で空気は湿気り、肌にベタベタとまとわりついて鬱陶しい。気分は踏んだり蹴ったりだ。
風呂上がりに気怠い身体を引きずっていると、縁側で干からびている棘を見つける。そこが家の中で一番涼しい場所なのかもしれない。ふわりと通る風が、心地よい。
まるで行き倒れのように、縁側で涼む棘の横に、大の字になって寝転がる。快適な場所を上手に見つける猫みたいだと、雅は棘の髪を撫でた。
「めん、たい、こ」
伸ばした手は、寝返りを打った行き倒れに巻き込まれ、あっという間に捕らわれて、枕代わりにされた。柔らかな頬擦りの感触が手のひらに伝わる。
向かい合った棘の手もまた、雅の頬にのびる。髪を梳いて触れる指先がくすぐったくて、笑い声が溢れた。月明かりに照らされた棘の瞳が、菖蒲色に輝いている。
気怠さを吹き飛ばす癒しだと、口元が緩んだ。身体中の力が抜けて、疲れも、痛みも忘れてしまいそうだ。このまま時間が止まればいいのに。
「動くな」
突然の呪言に、身体の自由が奪われる。
言葉の意図を推し量ることができず、思考さえ絆されている。雅は何故と問うこともできず、ただ彼の瞳を見つめ返すだけだった。
覆い被さるように組み敷かれて、初めて、棘の瞳に宿る熱の正体に気付く。握られた手から伝わる鼓動の速さで、彼の余裕の無さを知る。それだけで、目を逸らすことができなくなっていた。
月明かりの下、触れるだけのキスが落ちる。今にも泣き出しそうな顔で、離れていった棘の唇は、微かに震えていた。
もう効果は切れているはずなのに、驚きと混乱で身体が動かせない。ひとつだけ分かるのは、雅の心臓が、飛び出しそうな程に早鐘を打っているということだけだ。
棘は、いつまで経っても抵抗する様子のない雅の胸に耳を当てて、ドキドキと跳ねる心音を聞いていた。