第1章 それは心からの憂心
「だから主様……どうか今まで通り、私を主様担当でいさせてくださいませんか?こんな、身勝手な言葉だという事は、重々承知の上でございます、ですが…」
ベリアンからの駄目押しの縋るような瞳にうっ、と思わずたじろいだ。
そんな顔させてごめんねと、普段ならすぐさま白旗を上げているであろう私は、堪らずに目を泳がせる。どうしよう、確かにベリアンの為だと言ったけれども、普段あんなに純情で私を困らせることの一切を排除しようと動くあのベリアンが、ここまで自分の意志を通そうとしているのだ。
これはもう観念するしか無いのだろうか、と思った時、いつの間にやら部屋を訪れていた人物の声にベリアンの言葉が遮られた。
「こらこら、べリアン。主様を困らせちゃダメだろう?いつもの君らしくないね。」
「ル、ルカスさん…。」
「たまには良いだろう?それに、この屋敷に何人の執事が居ると思ってるんだい?今回はほぼ全員、マナーの見直しをしたいんだ。だから私も一緒にサポートするし、それだけ今度の舞踏会では問題を起こしたくないんだよ。それに何も、君がもう主様担当になれないわけじゃないんだ。主様だって、落ち着いたらまたべリアンを担当に戻すつもりでいるんだろう?」
ルカスの言葉に、私は勿論だと頷いた。
「ほらね?少しだけだよ。今回ばかりはきちんとどちらか片方に集中して行うべきだと思うんだ。だからね、べリアン、わかってもらえるかな?」
「、わ、分かりました……主様、我儘を言ってしまい、申し訳ありませんでした。」
目に見えて落ち込んだ様子のベリアンだったが、それでも申し訳なさそうに腰を折る姿は執事として完璧なものだ。
何だか逆にベリアンに申し訳無い気持ちになりながらも、ごめんね、という言葉は胸の内に仕舞っておいて、安心させるように笑い掛けた。