第1章 それは心からの憂心
「私もルカスから話は聞いてるよ。」
「さようでございますか……その、主様は、どう思われますか?私は、このまま主様担当を続けながらでも問題なく今度の役割を引き受けられると感じております。他の皆のマナーレッスンはいつも行っている訳ですし、確かに前回の舞踏会では何名か粗相があった執事は居りました。ですが、私が主様担当を外れてまで徹底して行わなければ進められないものだとも思いません。だから、私は、今まで通り主様のお側でお役に立ちたいのです。」
真剣な表情のべリアンが、珍しく少し捲し立てるかのように私に言った。その瞳はまるで捨てられる子犬みたいだ。
ルカスが言っていた、私担当の執事だという事にそれだけ思い入れがあるという事は本当らしい。
今のべリアンにNOを突きつけるのはあまりにも残酷なように感じたが、ここはべリアン自身の為!心を鬼にして、今だけは私担当を外れてもらわなくちゃいけないんだ。
「えっとね、べリアン……気持ちはすごい嬉しいんだけど、それだときっとべリアン、疲れちゃうよ?私は大丈夫だから、皆の面倒見てあげて?」
「あ、主様……。っですが、私は大丈夫ですから。その程度で音を上げることは致しません。どんなことがあろうと、全身全霊で主様のお役に立って見せます。他の執事達には次の舞踏会までに主様の執事として相応しい振る舞いを身に付けてもらえるよう努めますし、勿論その間も主様へ支える事に支障をきたす様な事は致しません。」
私の言葉に、ベリアンは明らかに狼狽えた様子だった。
それはきっといつもの私であれば、そこまでベリアンが言うのなら……と担当執事を変えさせること無く、無理はしないでくれと言ってそのままベリアンを隣に置く選択をしたからであろう。つまりベリアンにとって、私が担当を外す事に肯定的だというのは予想外であったのだろう。