第3章 それは悲喜交々とした恋の歌
どちらとも言えない。否、どちらからも求めていた。
啄む様に、何度も角度を変えては求めていく。
時折感じる、彼の吐息が酷く熱くて、それだけでも私はこの胸の内が彼でいっぱいに溢れてしまいそうになる。
下唇を甘く食むとぺろりとそれを舐め取って見せる彼が、その酷く熱を孕んだ瞳を私に向けた。
ぬるりと滑る舌が、ゆっくりと私の唇をなぞる。その感触を楽しむ様に、何度も往復しては私の息を乱していく。足りなくなった酸素を求め、たまらずに口を開けば滑り込む彼のもの。
「んんっ、…ふ、ぁ、」
絡み合う熱い舌の感触にくらくらした。
目の前の彼が、べリアンがまさかこんなにも熱い口付けをするだなんてと思っては、私の心を酷く焦がす。頭の中に響く粘着質な水音に煽られて、私からも求めた舌を更に絡み取っては、彼はちゅ、と私の舌先を吸った。
堪らずに支えられていた体がふらりとよろめいて彼の腕を支えに掴む。例えヒールを履いていたとしても身長差のある彼に覆いかぶさるように口付けられては、息苦しさにしがみ付いてしまう。
そのことに気が付いたべリアンが、すぐに私を抱き上げるとそっと優しくベッドへと下ろした。
一見細く見えるが、重たいドレスを着ている私を軽々と持ち上げる彼にまたどきりとした。
「主様……」
私を見る紅紫色が、いつものその喜びの色に交えて隠せない衝動を向けている。
だが私へと伸ばされる手はとても優しくて、まるでやっと美しく花咲かせたバラの花をその手に包むかのようであった。
「主様……私は、主様のものでございます。貴女様だけのものでございます。全てを捧げる覚悟でお仕えして参りましたが……本当に、この身も、心も、命でさえも、全て貴女様に捧げたいと、そう願っても、構わないのでしょうか。」
どうか私の全てを、受け取って頂けますか、主様。
そう言ってべリアンは私の指先にそっと口付けを落とした。
「もちろん……私も、ベリアンのものにして。」
「ぁあ、主様……いえ、様…。」
下ではまだ賑やかな舞踏会の音楽や、愉しげな話し声が聞こえる中、私とベリアンはこの部屋で二人きり、お互いを隠すかのように抱き合うのだった。