第1章 それは心からの憂心
それから私は暫くして自室に戻り、恐らくルカスから説明を受けているであろうベリアンが戻るのをムーと待っていた。相変わらずのお調子者具合のこの黒猫だが、ベリアンが今回の件をどう思うのかと少し緊張していた私にはありがたいものであった。
「うーん、ベリアンさん、遅いですね。僕、小腹が空いてきちゃいました!」
「ふふふ、相変わらずムーは燃費が悪いねぇ。ベリアンは今ちょっとルカスと今後の予定について話してるんだよ。だから少し待っててあげよう?」
「そうなんですね!じゃあ、ベリアンさんが戻ってくるまで、僕が主様の担当執事ですね!」
そう言って何だか嬉しそうにはしゃぐ黒猫を、微笑ましく見ながら頭を撫でてやった。
当人?当猫?は、えへへへ、と顔を綻ばせながらも、任せてくださいね!等と意気込んでいる。彼は執事とは言っても話し相手程度にしかならないのだが、それでも今の私にとっては充分なものであった。
思いの外、ルカスと長く話し込んでいるらしいベリアンは中々姿を現さなかった。まだかな、なんて思いつつも小腹を通り越して中腹が空いてしまったとショボくれるムーに、残っていたお茶菓子を分けながら待っていれば、ようやくコンコンコン、とドアが控え目にノックされた。
「失礼致します、主様……長く主様のお側を離れ申し訳ありませんでした。」
ベリアンだ。
恭しく頭を垂れる姿は、その顔に笑顔を浮かべてはいるものの、やはりどこか落ち込んでいるように見える。
少し真面目な話になるだろうからと、もう少し一緒に居たかったとむくれるムーには悪いが、一度席を外させた。
「あの、主様……今、お時間宜しいでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ、べリアン。」
「ありがとうございます……実は、主様にもお話が通っているでしょうが、暫くの間、主様の担当を外れる手筈になるかもしれなくなりまして。」
やはり、先程の件だ。
私はきちんとベリアンに納得して貰えるのか、彼を傷付けることなく今回のルカスとの計画を進めることが出来るのかを考えて、少しだけ緊張した。
だった。