第3章 それは悲喜交々とした恋の歌
着なれないこのドレスのせいか、乱れる息がこの胸を苦しめる。けれども、この苦しみは決してその程度の理由だけではないということ等、それこそ苦しい程に理解していた。
はぁはぁと絶えず吐き出される息を整えながら近付いた私の部屋の、少しだけ開いたまま扉の隙間からは僅かな灯りが漏れていた。
深く深く呼吸して、吐き出して、ゆっくりと気持ちを落ち着かせようと何度かそれを繰り返した。
喧しい音を立てる心臓をなんとか誤魔化しながら、中を覗く。思っていた通り、そこにはあんなにも探していた彼がいた。
項垂れるようにテーブルへと腕を付き、うつ向いた表情からはどんな感情を抱いているのか分からない。
そうして、手元にある一冊のノートを震える手で捲り始めた。
そっと、音を立てぬように慎重に扉を開いては、またゆっくりと閉める。
ペラリと2枚目のページを捲った時、私は声を掛けようと思ったが、それよりも先に扉が閉まる音に気が付いたベリアンが焦った様子で此方を見た。
バサバサと、音を立てて落ちたのはハウレスが記帳していたノートだった。
「あ、主様……っ、」
落ちたノートを気にもとめない程に酷く狼狽えたベリアンは、気が動転したかのように目を泳がせながら、あからさまにたじろいだ。後ろに引いた脚が椅子にぶつかり、無機質な音をこの部屋に響かせる。
張り詰めるような緊張感に、胸が苦しくなる。
「ベリアン……」
そんな顔をしないでと、どうしたらいいか分からなくなっている彼の名前を静かに呼んだ。
「っも、申し訳御座いません!すぐに持ち場へ戻ります!」
弾けたように動きを見せた彼は、私の横を通りすぎ、この空間から逃れようとする。