第3章 それは悲喜交々とした恋の歌
だが貴方は、その穏やかな笑みの下に、そんなにも激しい想いを抱いていたというの。
知らなかった。いつもあんなに暖かく、木漏れ日のような光を纏う貴方が、こんなにも重たく冷たいものを胸の内に秘めていただなんて。
曲はゆっくりと、穏やかな美しい音へと変わっていく。そして、それはまるで秋の夜風に流されるかのように、静かに消えて無くなった。
暫しの静寂の後、ゆっくりと立ち上がったベリアンに、珍しくも貴族達が手放しの拍手を浴びせる。弾けるような喝采に包まれているというのに、そんな評価は今の彼には届いてすらいなかった。
すぐに下げた頭、どこか定まらない視線で持ち上げた彼の紅紫色を、私は胸の奥がぐしゃりと音を立てるのを聞きながら、真っ直ぐに見詰めていた。
泣きそうな、今にも崩れ落ちてしまいそうなその瞳は、間違いなく私を捕えたのだった。見開いた瞳が隠しきれぬ動揺で揺らぎ、そして強引に隠された。
ふいと向きを変えたベリアンは、響くアンコールを求める拍手にも答えないどころか、気が付きもしない様子でフラフラと会場の奥へと消えていった。
私は今すぐにでもその背中を追いたいのに、この許されぬ現状がもどかしくて仕方がない。堪らずに、落ち着き無く彼の消えた先が見えないかと首を動かしてしまう。
奏者が見えなくなろうと、未だ鳴り止まぬ拍手が会場を包んでいた。
静かにベリアンの音色を聞いていたフィンレイ様が此方に向き直っては、クスリと笑いながらどこか遠くを見詰めている。
「……さて、今宵の宴も終幕かな。」
ポツリと呟かれた、その声に気が付いたのは私だけであった。
「え?まだ、お時間には余裕が……」
「いいや、君程度の役割などもう充分だ。お飾りの華には、もう誰も目をくれやしないだろう。」